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若々しい新緑がきらきらと瞬く5月ですね。
新社会人のみなさんは元気に五月病にかかっている頃でしょうか。

営業職に就いた方の中には、「自分が売るものに対して100%の自信を持てない」と悩む方もいるんじゃないかなと思います。自信が持てないものを売るのは不誠実で嫌だ、そもそも飛び込み営業しんどい、でも入社して一ヶ月で辞めるわけにはいかない……!

10年前、新社会人だった頃の私の気持ちです。

現在はフリーランスで楽しくやっているので、「辛かったら辞めちゃえ辞めちゃえ〜〜! 意外と何とかなるから!!」と言いたいところなんですが、責任は1ミリも取れないし、「また就活するの辛い」とか「ある程度頑張らないと自分のことが嫌いになりそう」という気持ちもわかるので、今回は「辞めずに頑張る為の精神論」を書きたいと思います。

当時の私の仕事は、毎週発行するタウン誌(フリーペーパー)の広告営業&編集でした。担当するエリアの飲食店、雑貨屋、ギャラリー、花屋、服屋、美容院、接骨院、病院、不動産会社、保険会社、旅行会社、政治家、行政などなど全てがお客さん。上司から引き継いだお客さんもいたけど、基本的には飛び込みで新規開拓します。

1日数十件の飛び込み営業。扉を開くときは心臓がバクバクして手が震え、動作はぎこちなく、笑顔はひきつり、声はうわずって。頭の中で何度もシミュレーションした姿と実際の自分の姿との剥離に募る自己嫌悪。時には迷惑そうにあしらわれ、時には同情の目を向けられ、入社して数日でがっくり落ち込んでしまいました。

「飛び込み営業って基本的に迷惑な行為じゃないですか。私がお店を経営する側だったら“せっかくお客さんが来たかと思ったのに、なんだ営業かよ”とがっかりするし、無駄な時間を取られて絶対に苛々すると思います。資料を郵送するとか、媒体の反響を高めて向こうから“広告を出したい”と言われるようにするとか、別の方法を取ったほうが良いんじゃ……」。

上司の前で弱音を吐いたところ、即座にこんな言葉が返ってきました。

「ひまさんが来て嫌がる人なんていないよ。いたらそいつは可哀想な奴だよ」。

私は、

と思いました。社会に出たてで、とても素直だったからです。

人から言われた言葉を拡大解釈して調子に乗れるところが私の長所だよ

この一件以降、「待たせちゃって、ごめんね」と謎の自信を持って堂々と飛び込むようになり、そうすると不思議なことに、以前に比べ随分と良い感触が得られるようになったのです。

中には気が乗らない日もありましたが、そういうときは高いビルから町を見下ろして「パズーごっこ」をすることで自らテンションを爆上げして鼓舞しました。

飛び込み営業に必要なのは自己陶酔力だよ

ただ、私が制作していた媒体の配布方法は新聞折込。2006年、いまほどではないけど新聞購読者はかなり減ってきていたし、ネットのクチコミサイト等も出始めた頃です。行く先々で、「新聞折込のフリーペーパーにどれほど反響があるの?」と訝しむ声をたくさん聞きました。

でも、会社には反響データというものがありませんでした。いや、あるにはあったのですが、他エリアのもので業種も限られていて、対して当てになるデータではなかったのです。

私の担当エリアはというと、上司曰く「ないよ。クーポンでも付けないと反響はわからないけど俺はクーポンアンチだから」。それに、反響は業種によって変わるし、「広告サイズ」「掲載頻度」「そのときのキャッチコピー、写真」にも、天候やそのほかの要素にも左右される。広告は水物(そのときの条件によって変わりやすく、予想しにくいもの)だから、「この広告はこれだけの反響がありました、だから同じようにすれば反響が出る筈です」と営業するのは不誠実なんじゃないか。そんな主旨のことを言われたように記憶しています。

私は、


と思いました。素直だったからです。

考えてみると、「そもそも新社会人でスキルも経験も何もない自分が“人の役に立ちたい”と思うなんておこがましいことだったんじゃないか?」という気がしてきました。「自分の給料を得るためにしている仕事なのに、“あなたのために”みたいな口ぶりで話すのは欺瞞じゃないのか?」と。

そこで、ストレートに「私のために広告を出してください」と言うようにしました。具体的に書くとこんな感じです。

「環境問題にしろ商店街の衰退にしろ高齢者の孤独死にしろ、全国的な社会問題も解決していくのは地域の小さなアクションだと思っています。この地域で活動する人を紹介することで、「うちの町にこんな面白い人がいたんだ、一緒に何かしたい」という人を増やしたい。ローカルなフリーペーパーにはそういう力があると思います。でも、フリーペーパーだから広告が載らないと発行できません。せっかく広告を掲載するなら、この地域ならではの魅力的なお店や企業を紹介したい。だからスポンサーになってほしいんです」。

 

結果、

入社4か月目に月間MVPを受賞しました。

 

 

種明かしをすると、営業したお店が商店街のお祭りの実行委員長で、「うちの広告は出せないけどお祭りのパンフレットつくってよ!」と言われ、毎週4P発行のフリーペーパーを4P丸ごと買い取ってもらったのです。だからビギナーズラックの要素が大きいのですが、その後も割と新規顧客から大きめの広告を出稿してもらうことが続いたので、やっぱり社会は優しいんだと思います。

飛び込み営業なんて迷惑でしかないと思っていたけど、意外とみんな面倒くさがらずに話聞いてくれるし、「うちは絶対広告やらない」と頑なだった人も、通いつづけるうちに「一回だけ試してみるよ」と言ってくれるようになりました。

私はすっかり調子に乗りました。

 

「ペイ・フォワードって映画観たことあります? 少年が“人から受けた恩や思いやりを、その相手ではなく別の人に返す”ことを提唱し、世の中を変える話です。私はすごく感動したんですよ。思い返してみればいままでたくさんの人に助けられてきたし、今度はその恩を別の人に返さないと、って」

 

「そうだなァ、自分ひとりの力だけでいまの自分があると思っちゃいけないな」

 

「さすが社長……こんな素晴らしい会社を経営できるようになるまでにはきっと多くの人が力を貸してくれたはず……。どうでしょう、その恩を私にペイ・フォワードしてみては?」


「そう来たか」

 

* * *

「こないだ近隣大学に、“このまちで好きなお店は?”とアンケート取ったんですよ。そしたら回答が“セブン”“マック”“モス”のオンパレード。そんなもんどこにでもあるだろ!!! 君らがそんなとこばっか行くから金太郎飴のようなまちが増えていくんだぞ!!! って怒鳴り散らしたくなりました」

 

「まー大学生は金がないし仕方ないんじゃないか」

 

「もったいないじゃないですか!! せっかく4年もこのまちにいて、美味しい名店も、人情深い店主のみなさんも知らずに卒業するなんて、人生の喪失ですよ!!! ……ということで現役大学生と一緒にこのまちを回る特集企画を考えました。大学内でも配布してもらい、このまちの魅力を紹介したいと思います。一枠○万円です」

 

「うち別に大学生に来てほしいと思ってないし」


「そうやって自分のことばっかり考えてちゃだめですよ! 若い内にいい店に行って感性磨くのは大事なことです。自分の店を宣伝するためではなく、若者に良質な出会いを提供するために広告を出すんです。社会貢献です」

 

* * *

「最近ほんとクーポンマガジン流行ってるじゃないですか。あれは文化を破壊するんですよ。クーポンで店を選ぶ客はまたクーポンを使って別の店に行くんです。お気に入りの店を見つけるとか、その店を応援するとか、そういう意識にはなりません。ただ少しでも安く、得した気分になればそれでいい。でもそれって大事なものを失っていませんか? お店だってそうです、クーポンを出せば新規顧客は来るけど、リピーターにならないから常にクーポンを出し続けないといけない。そんな循環、クーポンを発行する媒体以外誰も得しませんよ。

お店を経営する人は、クーポンで安易にお客さんを釣るよりも、自分たちが誰で、何を大事にしていて、どんなお店を経営しているのかをきちんと伝えるべきなんです。そこに惹かれてくるお客さんは、確かに数は少ないかもしれない。でも、お店のいいところを探して広めてくれる良いお客さんなんですよ」


「……で?」

 

「しかしですね、自分で自分の良さを客観的に把握するのは難しい。また、お客さんは自分発信の情報をあまり信用しないものです。だから一番いいのは、自分の店の魅力をわかっている第三者に、客観的な視点で紹介してもらうことなんです。つまり……私の出番です! どうでしょう、私に紹介文を書かせてみませんか? というかもう気分が高まってしまったので書いちゃったんですよね。こちらです。このコピーいいと思いません? うん、良いなぁ、この広告が載ってる紙面、見たいなぁ……」

 

「広告出すなんて一言も言ってないのにサンプル作ってきたの!? とんでもない図々しさだね」

 

* * *

冗談が通じるお客さんとの掛け合いは楽しくて、しんどいこともあったけど「次はどんなネタで営業仕掛けよ〜かな」とワクワクする気持ちは常にありました。

度胸もついたし、営業を通してたくさんの面白い人たちと知り合うことができたし、その過程で知識やスキルも段々身に付いていったし、いまでは「最初の仕事が営業でよかったな」と思っています。

自分が売るものに対して自信がなくても、知識やスキルが圧倒的に足りなくても、地獄の図々しさで相手の懐に飛び込み、自分の考えていることや持っているものをさらけ出す。世界は意外と優しいし、何が相手の琴線に触れるかわからないので、それだけで意外といけるんじゃないかと思います。

長々と語っておいて最後にすべてを台無しにする人間だよ

 

しかもここまで書いて気づいたんだけど、これはたして汎用性あるんでしょうか。

フリーペーパーの広告だからギリいけたけど、金融商品とか不動産とか営業してる人の参考になるのかな。……ならなくない? せいぜいパズーごっこ位じゃない? え、じゃあ何のために書いたの? 新社会人へのエールの体取ってただ自分語りしたかっただけじゃない? そうかもー! いっぱい「私が新社会人だった頃」話できて楽しかった〜〜〜〜〜ハッピー♡

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