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仕事でインタビューをした帰り道、カメラマンさんの話を聴く
ひとりになり、休憩しようとカフェに入る
カフェ店員の説明が長くてなかなかケーキを食べられない
カフェを出て、待ち合わせしていた友人と会う
とぼとぼと家路をたどる
夫の隣でお茶を飲んでいると、少しずつ身体の輪郭がしっかりしてくる
ぽつりぽつりと話しだす私、控えめに相槌を打つ夫
話をする私たちのシルエットがマンションの窓に浮かび上がる

私は普段、1〜2時間ほど誰かにインタビューして原稿を書く、という仕事をしているんだけど、それなりに集中力を使うので、編集者やカメラマンさんが昨日観たテレビ番組の話とか自分が好きなアイドルについてとりとめなく話す人だったり、休憩したいと思ってふらりと入ったお店で長時間こだわりや薀蓄を語られたり、自分がいま抱えている悩みを全部吐き出さないと気が済まない友人と会ったり、といったことが重なると、聴き疲れを起こしてしまう。

私の反応を気にせずひたすら話し続ける人が相手でも、いつもだったら「他者との交信の仕方が異なる星の人なんだな」と納得して、「人の話を遮ったり脈絡なく話題を転換したりするのは私の星の流儀ではないけど、このまま聴き続けていると相手を嫌いになってしまいそうだし、しょうがない、思い切ってやってみるか」と努力するんだけど、疲れているとそういう気力がどうしても湧かなくて。

「この人は私と言葉を交わしたいんじゃなくて、自分の持っている情報や感情をぶつけられるなら誰でもいいんだろうな。壁にボールを投げて、返ってくるボールを自分で拾ってまた投げて、一人遊びしているみたいだ。そんな人と話したいことなんて何もないな……」「いやいや、そんな風にネガティブに取るのは良くないよね、相手に『話を聴きたい』と思ってもらえない私の問題かもしれないし……」と、思考がどんどんネガティブになっていく。自分の身体が透明になっていくように感じて、言葉が出てこなくなる。

でも、家に帰ると、夫は基本的に口数が多くないので部屋にはほどよい静けさが漂っていて、ああ、ここは私の星だ、ここでは無理して聞き役にならなくても、無理して面白い話題を提供しなくてもいいんだ、とほっとする。夫は特別「君の話を聴こう」なんて意識しているわけではないし、とんちんかんなコメントが返ってきたりもするんだけど、私の反応を無視して話しつづけるようなことはしないし、なかなか言葉が出てこない私の「間」も待ってくれるから、透明になっていた身体が輪郭を帯びて、言葉が戻ってくる。

そうして次の日には、またほかの惑星の人と交流しに出かけよう、もっと良い交信方法を模索しようじゃないか、と思えるんだ。

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