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〜これまでのあらすじ〜 編集者に原稿を酷評されショックを受けたので曇りなき眼で自分の心を覗いたら小さな自分の分身が荒れ狂っていた分身の子どもたちをなだめる私「君たちちょっと落ち着いて! 荒ぶる気持ちはわからんでもないが鎮まりたまえ! 順番に話を聞こう!!!」 子ども1「だってね!」 「最初にAさんから依頼されたのは『お店の掲載許可を取りに行くこと』で、原稿は『もしかしたらお願いするかも』程度だったでしょ。件数も多いから依頼されるかどうかわからないお店の印象なんてずっと覚えてられないし、訪問してしばらく経ってから原稿を書いてと言われたんだから、実感のこもった文章を書くなんて無理だよ」 私「ああ〜……“相手の段取りや手順”が良くなかったという主張だね?」子ども1 「うん」 私「たしかに、そういう一面もあるかもしれない……けど、『だから原稿がいまいちになっても仕方ない』って言うのは、プロとしてどうなんだろう? 訪問したときの印象が薄れてしまっていたなら再訪してもよかったわけだし。それをしなかったのは、『こんなもんでいいでしょ』という慢心があったんじゃないかな? それに、仮に段取りが完璧だったとして、Aさんが求めるクオリティの原稿が書けたかな」 たしかに……?と考え込む子ども1 子ども2「でもさ!」 「80文字だよ? 『聞いた風な言い回し』っていうけど、定型句を使うことで短く簡潔にそのお店を表現できるし悪いことじゃないでしょ。具体的な描写をしたら80文字でなんて収まらないよ」 私「“求められている内容や水準”に無理があると言いたいんだね?」 子ども2 「うん」 私「そうだね……たぶんなんだけど、Yさんは、カフェならカフェの潮流の中でそのお店がどんな立ち位置にいるのか、このエリアの中でどんな存在なのかといった文脈を理解した上で、お店の魅力や個性、雰囲気をぎゅっと濃縮して伝えろと言いたいんだと思う。 本来お店を紹介するってそういうことなんだけど、最近は編集者のスキルも下がっているから、これまでは表面をさらったような原稿でも許されてきてしまったんじゃないかな。だからいまの私には難易度が高いかもしれないけど……一度挑戦してみて、悩んだらAさんに相談してみたらいいんじゃないかな?」 そうかも……?と考え込む子ども2 子ども3「じゃあさ!!」 子ども3「Aさんは今回指摘してきたこと全部できてるの? サンプルの文章を確認したけど、「だ・である」と「ですます」が混在していたり、お店視点と編集者視点が混在していたり、「あれ?」って思うことがいくつかあったよ」私「えーと……“指摘してきた相手の文章力”に疑問があるということ?」子ども3「うん」私「「まず、「自分が完璧にできていないと人に指摘しちゃいけない」わけじゃないよね? それに、編集者・ライターによって重視する点は変わるから、お互いに気づいていない点を指摘しあって原稿をよりよくしていったらいいんじゃないかな。編集者とライターは敵対関係じゃなくてパートナーでしょ。 自分に指摘してきた相手の欠点を探して、「だから私に対する指摘も正しくない」とするのはなんていうか……目的が「否定されないこと」になってないかな。自分が編集者側で、そういう振る舞いをされたら嫌じゃない?」 うーん……と考え込む子ども3 子ども4「でも!」 子ども4「「言い方ひどくない? 私が人の原稿に赤字を入れるときは、まず原稿を送ってくれたことにお礼を言って、いいと思う部分を褒めて、その上で改善すべき点を指摘して、場合によっては修正文の提案もしてるよ。それくらい気を遣うべきじゃない?」 私「“伝え方”に問題があると?」子ども4「うん」 私「「うーん……それは私自身が仕事相手と気持ちよく仕事をするための心掛けであって、編集の世界の共通ルールではないよね? どんなにいい心掛けも、『自分はこうしているから人も同じようにするべき』と思うようになったら、自分も周囲の人も苦しくなっちゃうんじゃないかな。 Yさんの言葉は厳しいけど、オブラートに包んでいないというだけで、私の人格を攻撃しているわけではないよね? だから私たちも、『メールの文章が丁寧かどうか』ではなく、『指摘されたことに納得が行くかどうか』だけで判断しようよ。今回指摘されたことって、正直図星だと思ったでしょう? これを機に改善できるなら、そうしたほうが気持ちよくない?」 (ふむ……と考え込む子ども4) 子ども5「それでも!!」 「イヤなの! 自分が書いたものを否定されるとみじめで悲しくて恥ずかしくて自分が消え入りそうになるの! だから認めたくないの! 相手が間違ってるっていうことにしたいの! そうしようよ!」 私「おお……なんて正直な発言なんだ……」 たしかにね、自分の仕事が相手の期待する水準に達していなかったことを認めるのは辛いことだよ。でも、それで『自分が消え入りそうになる』っていうのはおかしくない? 誰か一人からの、仕事の一部に対する評価で、自分の全存在が揺らいでしまうということでしょ? それってなんていうか……自分に対して失礼じゃない? そんなに自分のことが信じられないの? 「「「そうだよ!!!」」」 私「そうなの!?」

つづく。

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